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東京地方裁判所 昭和50年(ワ)7588号 判決 1978年8月29日

原告

松浦ヨシ子

ほか二名

被告

主文

一  被告は原告松浦ヨシ子に対し、金二八三万六九八二円及び内金二六三万六九八二円に対する昭和五〇年九月一三日から支払ずみまで年五分の割合による金員、原告松浦春雄、同松浦美智子それぞれに対し、各金七七三万四四七九円及び内金七三三万四四七九円に対する右同日から支払ずみまで年五分の割合による金員をそれぞれ支払え。

二  原告らのその余の請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用はこれを一〇分し、その三を被告の、その余を原告らの各負担とする。

四  この判決は第一項に限り仮に執行することができる。ただし被告において原告松浦ヨシ子に対し、金九〇万円、原告松浦春雄、同松浦美智子に対し、各金二五〇万円の担保を供するときは仮執行を免れることができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告は、原告松浦ヨシ子に対し金一〇八七万九七五九円及び内金九八九万六八八円に対する昭和四一年一二月一九日から支払ずみまで年五分の割合による金員、原告松浦春雄、同松浦美智子に対し各金八六七万九七五九円及び内金七八九万六九〇円に対する右同日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

3  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告らの請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

3  担保を条件とする仮執行免脱の宣言

第二当事者の主張

一  請求原因

1  (原告らの身分関係)

原告松浦ヨシ子は訴外亡松浦輝雄(以下亡輝雄という。)の妻であり、原告松浦春雄、同松浦美智子はいずれも亡輝雄の子である。

亡輝雄は、後記事故当時陸上自衛隊第四施設大隊第一中隊所属の自衛官で、その階級は陸士長であつた。

2  (事故の発生)

昭和四一年一二月一八日、陸上自衛隊第四施設大隊第一中隊所属の訴外深見富久陸士長(以下深見士長という。)が右第一中隊長の命令に基づき兵員輸送のため普通貨物自動車(以下本件事故車という。)を運転して国道三四号線を佐賀県藤津郡嬉野町方面から佐賀市方面へ向けて進行し、同日午後六時五五分ころ、同県武雄市東川登町大字永野八七六番地先にさしかかつた際、折から対面進行してきた訴外福山勝矢運転の大型貨物自動車に本件事故車の右側面を接触させ、そのため右事故車の後部荷台に同乗していた亡輝雄は即死した。

3  (責任原因)

(一)(1) 右事故は、深見士長が、本件道路の速度は毎時四〇キロメートルに規制されており、しかも本件事故現場附近は約七三度の左カーブとなつているうえ夜間ということもあつて見とおしが悪く、そのうえ当時は降雨中でコンクリート舗装の路面が雨水に濡れて滑走し易い状況にあつたのであるから、自動車の運転者としては前方を注視するはもとより、制限速度以下に減速して道路左側を進行し、もつて事故の発生を禾然に防止すべき注意義務があるのにこれを怠り、漫然と毎時五〇キロメートルの速度で進行を継続した過失により、路面の雨水とカーブのためハンドル操作が意の如くにならず道路中央線から約五〇センチメートル越えて走行したため惹起されたものである。

(2) また、右事故は、本件事故車の車長として助手席に乗車していた訴外琴尾峯次一等陸曹(以下琴尾一曹という。)において、本件事故車の運行責任者として、深見士長に対し、安全運行、経路の選定、速度の規制等につき適切な指導をなすべき義務があるのに、これを怠り、深見士長が前記のように危険な走行を継続しているのを漫然と看過したことも一因をなしている。

(3) 更に、本件事故車は後部荷台上左右両端に長椅子式腰掛が備えられているが、急ブレーキ操作等に対して身体の安全を保つような設備はなく、最後部はドアもなく、何ら転落防止の装置も備えられていない危険性のある車両であつたことも本件事故の一因をなしている。

(二) 被告は公務員に対し、公務員が被告若しくは上司の指示のもとに遂行する公務の管理にあたつて、公務員の生命及び健康等を危険から配慮すべき、いわゆる安全配慮義務を負つており、本件の如く被告が自己の管理する輸送手段によつて、公務員を業務上移動させる場合には、これによつて移動することが当該公務員にとつて義務である以上、被告はこれに対応して当該公務員を目的地まで安全に輸送し、その生命及び身体を輸送に伴なう危険から保護するよう配慮し、右配慮に従つて行動すべき義務を負つているところ、深見士長は本件事故車の運転者として、琴尾一曹は車長として、いずれも被告の右義務の履行補助者であつたというべきである。

ところが、被告は前記のように安全配慮義務を怠り、前記のように本件兵員輸送に安全設備に欠けた車両を使用させ、また履行補助者である深見士長、琴尾一曹の過失により本件事故を惹起させたものであるから、被告は安全配慮義務不履行に基づき、右事故によつて生じた後記損害を賠償すべき義務があるものというべきである。

4  (損害)

(一) 逸失利益

亡輝雄は本件事故当時三二歳で陸士長六号俸の給与を受けており、本件事故により死亡しなければ、別紙第一計算書記載のとおり、満期除隊予定の昭和四二年三月三〇日までの間は自衛隊給与法所定の収入を、また除隊後の同年四月から同人が就労可能な六七歳になるまでの間は、賃金センサス(昭和四二年から同四七年までは各年度の賃金センサス、また同四八年以降については同年度の賃金センサス)男子一般労働者の年齢別平均賃金を下回らない収入をそれぞれ得たはずで、右の額から年五分の割合による中間利息をライプニツツ方式により控除し、さらに同人は世帯主であつたので生活費として右収入の三割を控除すると逸失利益の死亡時における現在価格は右第一計算書記載のとおり金一九〇〇万三四三八円となる。

(二) 相続

原告らは、法定相続分に応じ、前(1)項記載の損害賠償債権を三分の一ずつ相続により取得した。

(三) 慰籍料

(1) 原告らは、本件事故により、それぞれ夫であり父であつた亡輝雄を失ない多大の精神的苦痛を受けたが、これを慰籍するには原告松浦ヨシ子につき金四〇〇万円、原告松浦春雄、同松浦美智子それぞれにつき各金二〇〇万円が相当である。

(2) 仮に債務不履行に基づいては原告ら固有の慰籍料請求権は認められないとするならば亡輝雄本人の慰籍料を請求する。すなわち、亡輝雄は本件事故により死に至る程の肉体的打撃を受けたが、これによる精神的苦痛を慰籍するには金八〇〇万円が相当である。

(3) 原告らは右(2)記載の慰籍料債権を三分の一ずつ相続により取得した。

(四) 弁護士費用

(1) 本訴において原告らの支出する弁護士費用は、被告の亡輝雄に対する安全配慮義務違反と相当因果関係に立つ損害というべきで、その額は損害賠償請求額の一〇パーセントが相当であるから原告松浦ヨシ子につき金九八万九〇七〇円、原告松浦春雄、同松浦美智子それぞれにつき各金七八万九〇七〇円となる。

(2) 仮に、右主張が認められないとしても、本訴に要する右弁護士費用金二五六万七二一〇円は亡輝雄につき生じた損害とみるべきである。

(3) 原告らは相続により右(2)記載の損害賠償債権を三分の一ずつ相続により取得した。

(五) 遅延損害金

原告らの安全配慮義務不履行に基づく本件損害賠償債権は、その性質上不法行為に基づく損害賠償債権と同様に、右損害発生の日である昭和四〇年三月二四日から遅滞に陥つているものというべきである。

よつて、被告に対し、債務不履行に基づく損害賠償として、原告松浦ヨシ子は金一〇八七万九七五九円及び右の内弁護士費用を除く金九八九万六八八円に対する事故の日の翌日である昭和四一年一二月一九日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金、原告松浦春雄、同松浦美智子は各金八六七万九七五九円及び右の内弁護士費用を除く金七八九万六九〇円に対する右同日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払をそれぞれ求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1、2の事実は認める。

2  同3(一)の事実中、(1)の事実は認める。(2)の事実中、琴尾一曹が本件事故車の車長として乗車していたことは認めるが、その余は争う。(3)の事実中、本件事故車は後部荷台部分に座席を設けていることは認めるが、その余は争う。

同(二)の事実中、被告が一般的に公務員に対し安全配慮義務を負つていることは認めるが、深見士長及び琴尾一曹が被告の履行補助者であることは否認し、その余は争う。

自動車運転の場合における右安全配慮義務の内容は、道路交通法七四条、七五条に規定されている雇用者等の義務に準じて考えるべきもので、道路交通法六四条ないし七一条の三に規定されている運転者の義務は運転者固有の義務であつて、被告国の安全配慮義務の内容とはなり得ないのであるから、原告ら主張の深見士長の注意義務違反は、運転者固有の義務違反の問題であつて、被告の安全配慮義務違反の問題とはならないというべきである。

車長である琴尾一曹が仮に被告の履行補助者にあたるとしても、車長の運転者に対する自動車の操縦に関しての具体的な指揮監督は、操縦行為が運転者の瞬時の判断によつてなされるという特質からして、具体的な場面における危険回避の措置は運転者のみに課されているのであつて、車長の配慮の及ばないところであり、琴尾一曹は交差点、踏切などに差しかかつた際には、運転者と共に喚呼操縦を行ない、また走行速度に関する指示も適切に行なつており、安全配慮義務を尽くしていた。

また、仮に、本件事故車の座席の構造が原告ら主張のとおりであるとしても、右座席の構造については、道路運送車両法一条に基づく道路運送車両の保安基準を定めた運輸省令(昭和二六年運輸省令第六七号)と同様の内容をもつ、防衛庁長官が訓令により定めた独自の保安基準に合致したものであり、安全に対する配慮を欠いていたとはいえない。また本件事故車は座席ベルトを設けて身体を座席に固定するようにはなつていないが、省令で座席ベルトの設置が規定されたのは本件事故後の昭和四三年になつてからであるばかりでなく、現行省令でも本件事故車に設置されていたような座席については座席ベルトの設置は義務づけられていないのであるから、これをもつて被告が安全配慮を欠いていたことにはならない。

4  同4(一)の事実中、亡輝雄が本件事故当時三二歳であつたことは認めるが、その余は争う。

同4(二)のうち原告らが亡輝雄の相続人であることは認めるが、その余は争う。

同4(三)の主張は争う。原告らと被告の間には債権債務関係はないので、債権者でない原告らが契約上の義務不履行を理由として原告ら固有の慰藉料を請求することはできない。

同4(四)の主張は争う。

同4(五)の主張は争う。本件損害賠償債権は債務不履行に基づくものであるから、履行の催告によつて遅滞に陥るものというべく、したがつて本件における遅延損害金の起算日は、被告に対する本件訴状送達の日の翌日と解すべきである。

三  抗弁

1  被告は原告らに対し、本件事故に関して左記の金額を既に支払つた。

(一) 遺族補償年金の既支給分

被告は防衛庁職員給与法二七条による国家公務員災害補償法の準用により、原告らに対し公務災害補償年金の給付決定をなし、昭和四二年一月分から同五三年二月分までとして既に金五一四万五七四〇円を支払つたので右金額は原告らの損害額から控除されるべきである。

(二) 特別給付金の既支給分

被告は原告らに対し人事院規則一六―三に基づき昭和五二年四月一日以降遺族特別給付金を支給しており、同五三年二月分までとして既に金一六万三七五七円を支払つたので右金額は原告らの損害額から控除されるべきである。

(三) 奨学援護金の既支給分

被告は原告松浦春雄、同松浦美智子に対して、人事院規則一六―三、一五条三号、一六条に基づき昭和五二年四月一日以降奨学援護金を支給しており、同五三年二月分までとして、原告松浦春雄に対して金二一万七五〇〇円、原告松浦美智子に対して金一七万五〇〇円を支給したので右各金額を原告松浦春雄、同松浦美智子の損害から控除すべきである。

2  原告らに対しては左記のとおり将来にわたつて金員の給付がなされる決定がなされているので、左記金額も原告らの損害から控除されるべきである。

(一) 遺族補償年金

原告らに対しては、別紙第二計算書記載のとおり遺族補償年金が支給されることになつており、これから、年五分の割合による中間利息を控除すると現価は金一二〇九万二七五九円である。

(二) 特別給付金

原告らに対しては、人事院規則一六―三により、将来も遺族特別給付金として遺族補償年金に百分の二〇を乗じた金額を支給することとなつており、その額は右(一)の金一二〇九万二七五九円の一〇〇分の二〇を乗じた金二四一万八五五一円である。

(三) 奨学援護金

原告松浦春雄に対しては、同人が四年制大学に進学した場合、別紙第三計算書(一)欄記載のとおりの奨学援護金が支給されることになつており、これから年五分の割合による中間利息を控除すると現価は金五六万九七五〇円であり、また、原告松浦美智子に対しては、同人が二年制大学へ進学した場合、右第四計算書(二)欄記載のとおり奨学援護金が支給されることになつており、これから、年五分の割合による中間利息を控除すると現価は金四七万二七九三円であるので、これらについてもそれぞれの損害額より控除されるべきである。

四  抗弁に対する認否

抗弁1の事実中、原告らが、被告主張の額の遺族補償年金、特別給付金、奨学援護金の支払を受けたことは認めるが、その余は争う。本件損害賠償請求権と右各支給金とは、その性質、発生原因、権利主体を異にし、右請求権から控除されるべきではない。仮に控除すべきとしても右各支給金の受給権者は原告松浦ヨシ子であるので、同人の右請求権から控除すべきである。

同2の事実は争う。

第三証拠〔略〕

理由

一  亡輝雄が本件事故当時陸上自衛隊第四施設大隊第一中隊所属の自衛官であり、陸士長であつたこと、原告主張の日時場所において、右第四施設大隊第一中隊長の命令によつて兵員輸送にあたつていた深見士長運転の本件事故車が、折から対面進行してきた訴外福山勝矢運転の大型貨物自動車と接触し、そのため本件事故車に同乗していた亡輝雄が死亡したことは、いずれも当事者間に争いがない。

二  ところで、被告国が一般的に原告ら主張のような安全配慮義務を負つていることは被告も争わないところである。しかしながら、被告の右義務は公務の執行に供する人的動的設備及び勤務条件等を支配管理していることに由来するものというべく、従つて履行補助者の範囲も右支配管理の業務に従事している者に限られ、支配管理を受けて単に公務に従事している者は含まれないと解するのが相当であり、本件の如き車両による兵員輸送の場合、輸送計画の決定及びその実施にあたつての指揮、監督にあたる者が履行補助者であるというべきであるところ、成立に争いのない乙第四号証の一によれば、深見士長は自衛隊入隊後車両操縦士として専ら車両の運転に従事してきた自衛官で、本件事故時も命令を受け単に本件事故車を運転していた者にすぎないことが認められるので、同人は被告の安全配慮義務についての履行補助者にあたらない者といわざるを得ない。

三  次に、訴外琴尾が本件事故車の車長であつたことは当事者間に争いがなく、成立に争いのない甲第四号証、乙第四号証の一、三、証人琴尾峯次の証言によると、昭和四〇年七月一日に陸上自衛隊車両の管理運用規則が改訂になり車長という制度は廃止になつたが、その後も右規則の運用として、必要に応じて各部隊で車長制度を採用できることになつており、本件部隊の所属する第四師団も車長制度を採つていたこと、車長は部隊長が任命するか、もしその任命がなければ、その車両の乗車者及び乗務員中の上級先任者が就くことになつており、車長は単車運行の場合は安全運行、経路の選定、速度の規制等の責に任ずることになつていたこと、また本件部隊においては喚呼操縦をやつており、助手席に位置する車長が、道路状況、車両の運行状況に注意し、車両の安全運行を確保するために、運転者に対し、走行中もその都度、具体的に口頭で指示を与えることになつており、運転者は、車長の右指示に従わねばならないことになつていたこと、本件事故時は事故車の単車運行であつたことが認められ、以上の事実によれば、本件事故車の車長である琴尾一曹は本件事故車の安全運行を指揮、監督すべき立場にあり、被告の安全配慮義務の履行補助者であつたというべきである。

次に琴尾一曹において、右義務の債務不履行があつたか否かの点について判断するに、本件事故現場附近は速度が毎時四〇キロメートルに規制されており、しかも約七三度の左カーブとなつているうえ夜間ということもあつて見とおしが悪く、そのうえ当時は降雨中でコンクリート舗装の路面が雨水に濡れて滑走し易い状況にあつたのであるから、このような状況の下においては自動車の運転者としては前方注視するはもとより減速徐行すべき義務があつたのに、深見士長が毎時五〇キロメートルの速度で進行を継続したために、路面の雨水とカーブのためハンドル操作が意の如くにならず道路中央線から約五〇センチメートル右側に越えて走行したために本件事故が惹起されたことは当事者間に争いがなく、前掲乙第四号証の一、証人琴尾峯次の証言によると、琴尾一曹は、自身運転免許を有しているのにかかわらず本件事故現場にさしかかる前に、深見士長に対して「次はカーブだ」と口頭で注意を与えたのみで、本件事故車が右記のとおり、速度を出しすぎて危険な状況で走行を続けていたことに対して、何らの注意も与えなかつたことが認められ、他に右認定を左右する証拠はない。以上の事実によれば、琴尾一曹は被告の安全配慮義務の履行補助者として右義務の履行につき注意義務違反があつたものといわなければならない。

そうだとするならば、その余を判断するまでもなく、被告は被告の安全配慮義務の不履行に基づき本件事故により生じた損害を賠償すべき責任があるものといわなけなればならない。

四  損害

1  逸失利益

亡輝雄が本件事故当時三二歳であり、階級は陸士長であつたこと、原告松浦ヨシ子が亡輝雄の妻であり、原告松浦春雄、同松浦美智子がいずれも亡輝雄の子であることは当事者間に争いがない。また成立に争いのない甲第五号証の一ないし五、乙第八号証及び弁論の全趣旨によると、本件事故当時、亡輝雄は陸士長六号俸の給与を受けており、翌四二年三月三〇日に満期除隊の予定で、本件事故により死亡しなければ満期除隊になるまで右給与を受け、また右除隊後の昭和四二年四月から六七歳までの間就労し、その間賃金センサス(昭和四二年から同四七年までは各年度の賃金センサス、また同四八年以降は同年度の賃金センサス)男子一般労働者の年齢別平均賃金を下廻らない収入を得ることができたであろうことが推認され、前記争いのない事実によると、同人には本件事故当時妻子がおり、同人は世帯主であつたことが認められるので右収入額から生活費として右収入の三割を控除し、更に年五分の割合による中間利息をライプニツツ方式により控除すると、逸失利益の死亡時の現在価格は金一九〇〇万三四三八円となる。

よつて、亡輝雄の死亡による得べかりし利益喪失による損害は金一九〇〇万三四三八円である。

2  相続

原告松浦ヨシ子は亡輝雄の妻であり、原告松浦春雄、同松浦美智子は亡輝雄の子であつて、原告らは、いずれも亡輝雄の相続人であることは当時者間に争いがなく、成立に争いのない甲第二号証によると、原告らの外に亡輝雄の相続人はいないことが認められ、以上の事実並びに弁論の全趣旨を総合すると、原告らは、法定相続分に応じ、右1記載の損害賠償債権を三分の一である金六三三万四四七九円(円未満切捨)ずつ相続により取得したことが認められる。

3  慰藉料

原告らは、本件事故により、それぞれ夫であり父であつた亡輝雄を失つたもので、原告らが右により多大の精神的苦痛を受けたことは容易に推認されるところであり、本件事故の態様、原告らと亡輝雄との身分関係その他本件に顕われた諸事情を併せ考えるとこれを慰藉するには原告松浦ヨシ子につき金二〇〇万円、原告松浦春雄、同松浦美智子それぞれにつき各金一〇〇万円が相当である。

なお、被告は、原告らと被告との間に債権債務関係は存しないので、原告らが被告の債務不履行を理由として原告ら固有の慰藉料を請求することはできない旨主張するが、本件安全配慮義務に基づく損害賠償請求権といえども、右債務不履行と相当因果関係にある以上、原告ら遺族固有の慰藉料請求権が認められるものと解するのが相当であるから、被告の右主張は採用できない。

4  損害の填補

原告らが被告から、昭和四二年一月分から同五三年二月分までの遺族補償年金として金五一四万五七四〇円を、昭和五二年四月一日以降同五三年二月分までの遺族特別給付金として金一六万三七五七円を、右同期間の奨学援護金として原告松浦春雄については金二一万七五〇〇円を、原告松浦美智子については金一七万五〇〇円を、それぞれ受領したことは当事者間に争いがない。

ところで遺族に支給される右各給付金は、国家公務員の収入によつて生計を維持していた遺族に対して、右公務員の死亡のためその収入によつて受けることのできた利益を喪失したことに対する損失補償及び生活補償を与えることを目的とし、遺族にとつて右各給付によつて受ける利益は死亡した者の得べかりし収入によつて受けることのできた利益と実質的に同質のものといえるので、既に給付のなされた金額については損害の填補がなされたものというべきであるところ、成立に争いのない乙第八、第九号証によれば右各給付金の受給権者は、いずれも亡輝雄の妻である原告松浦ヨシ子であることが認められるので、右各給付金の合計額金五六九万七四九七円を、原告松浦ヨシ子の本訴請求金額から控除することとし、なお、右各給付金の将来支給分については、現実に損害の填補を受けていない以上、控除することは相当でないので、これを控除しないこととする。

5  弁護士費用

原告らにおいて支出する弁護士費用も、被告の亡輝雄に対する安全配慮義務違反と相当因果関係に立つ損害ということができ、本件事件の難易、認容額等を考慮すると、その額は原告松浦ヨシ子について金二〇万円、原告松浦春雄、同松浦美智子それぞれについて各金四〇万円が相当であると認められる。

よつて、原告らの未だ填補されていない損害残額は、原告松浦ヨシ子につき金二八三万六九八二円、原告松浦春雄、同松浦美智子につき各金七七三万四四七九円となる。

6  遅延損害金

本件損害賠償債権は債務不履行に基づくものであるから、履行の催告によつて初めて遅滞に陥ると解すべきであり、したがつて特段の主張立証のない本件においては、遅延損害金債務は本件記録上明らかな訴状送達の日の翌日である昭和五〇年九月一三日から発生するものというべきである。よつて、原告らの本訴請求中、原告松浦ヨシ子については金二八三万六九八二円及び右の内弁護士費用を除く金二六三万六九八二円に対する昭和五〇年九月一三日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金、原告松浦春雄、同松浦美智子については各金七七三万四四七九円及び右の内弁護士費用を除く金七三三万四四七九円に対する右同日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いをそれぞれ求める限度で理由があるから正当としてこれを認容し、その余は理由がないから失当としてこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条、九三条を、仮執行の宣言及び同免脱の宣言につき同法一九六条一項を各適用し、主文のとおり判決する。

(裁判官 小川昭二郎 片桐春一 金子順一)

第一計算書

<省略>

第二計算書 年金支給予定額算定表

1 算定の基礎

(1) 平均収入月額 (3曹5号俸の月額)115,200円+(営外手当)4,500円+(扶養手当)11,400円=(給与月額)131,100円

(2) 平均収入日額 131,100円×30日≒4,370円

(3) 平均収入年額 4,370円×365日=1,595,050円

2 受給資格

松浦ヨシ子(妻)(昭和12年1月15日生)受給資格あり

〃春雄(長男)(昭和38年3月12日生)18歳に至るまで受給資格あり、

〃美智子(長女)(昭和40年6月23日生)}

遺族3人の場合56/100

長男18歳に至つた場合は受給資格者2人となつて50/100

長女も18歳に至つた場合は配偶者のみについて35/100

配偶者50歳以上55歳未満で40/100

配偶者55歳以上となつで45/100

3 年金支給予定額算定内訳

<省略>

第三計算書 奨学金支払予定内訳

<省略>

<省略>

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